枸橘半分日記

OL自分探しの末路

2017年6月23日

金曜日

予定がある日に限って起きられない。昨晩なかなか眠りにつけなかったため、以前使っていたものよりも軽いものだと油断していたこともあり、用法より多めの眠剤を飲んだのだが、朝、目は覚めたが足元がおぼつかず、まともに歩けない。汗とともに流れ出てくれないかと念じながらシャワーを浴び、準備を整えて外に出たのは午前11時。この時点で予約した通院時間から1時間の遅刻。

午後1時、病院を出て薬局で薬をもらい、ランチタイムに開いている居酒屋に入った。生ビールとメニュー表には書かれている発泡酒を歯噛みしながら飲んだ。

 

午後5時半。今日も掃除をした。ひと段落ついたので椅子に座る。部屋に西陽が差し込んでいた。外を見ようとしても眩しくて目を開けられないほどだ。この太陽が私の罪を、私の身に巣くった憎悪を、燃やし尽くし、浄化してくれる気がする。

穏やかな気持ちだった。子供の頃のことが突然浮かび上がってきた。二人の少年と、汗だくになりながら、夕方の田んぼ道を私は走っていた。

私は笑っていただろうか。それとも顔を真っ赤に染めて、子供がよくする、どこともしれぬ一点を見つめた真剣な表情をしていただろうか。友人二人の顔には真っ白な穴が開いていて、感情をうかがい知ることはできなかったが、三人とも、いま私が感じているのと同じ穏やかな気持ちであった、という確信だけはある。

あれから十数年経ち、私たちはいつの間にか疎遠で、一人は15年ほど前になにかのイベントで一度挨拶を交わしたきり、連絡先も、どこに住んでいるのかもわからない。一人は不幸な事故で死んでしまった。

しかし穏やかな気持ちは、この感覚は、もう失われてしまって取り戻せない三人の関係に、時や場所、生死をこえて私をつながらせてくれる。こんな穏やかな気持ちが、間もなく、日の入りとともに、消えていってしまうのだと思うと、胸がすり潰される様に悲しく、声を立てずに泣いた。

2017年6月19日〜22日

月曜日

正午起床。8時間は眠っていた。公共料金の支払いを済ませた後、賃労働へ。

 午後5時、胃に刺すような痛み、空吐きが止まらないので、公園のベンチで蚊を追い払いながらソルマックを飲む。気休め程度。

午後11時半、最寄駅に着く。喫煙所で煙草を吸っていたら、胃が発火したんじゃないかと思うほど熱く痛むので、コンビニに駆け込んでソルマックと酒を買って帰宅。いろんなものを流し込んですぐに寝る。

 

火曜日

午前5時起床。風呂に入ったあと定食屋に朝食を摂りにいく健康的な朝。出勤時間まで、落語を聞いたり、寝たり、天気予報を見たりとのんびり過ごし、ここ数週ないおだやかな心持ちで賃労働へ。

午後5時。激しい胃痛と倦怠感、世界への憎悪しかない。

午後11時半、帰宅。妹が勘違い中年野郎につきまとわれかけているという話を聞き、すべて流し去りたい。

 

水曜日

浅い眠りを繰り返しているうちに朝になり、朝も終わった。

賃労働へ行った気もするが、怒りや悲しみの感情だけが残っていて、具体的な出来事を思い出せない。

 

木曜日

朝起きたら鍵がなかった。鍵がない、鍵がないと探しているうちにパニックを起こしたので、職場に電話して今日は休むと伝える。

半日部屋の掃除に費やす。

掃除後の時間は私の時間のはずだ。

あけて午前1時、それは終わった。無為なのに徒食。私は自傷行為をするか否かのふちに立っていた。が、しない選択をした。残っていた薬をすべて酎ハイで流し込んだ。

私は朝を思って、目覚まし時計のタイマーを午前7時にセットした。通院がある。

明かりを消し、硬いフローリングに横たわる。腰骨を傷めないよう、硬いベルトは外す。天井には小さな虫が蠢いていて、時々落ちてくるので、目を開けたら瞑ったりするのが厄介だ。目を閉じたままだと瞼に長く居座る。息を強く吐く。逆に吸うのは慎重に。虫を吸い込まないためだ。彼らは内腑を貪るわりには外に出て行こうとしない。傍で蕎麦を食っていたとしても、チャチャラチャラチャラ相手の方に移動することもない。好物など無くて、目の前にあるものを食い、そして死骸だけ残して、消化されないので、奇妙だ。死骸とともに私は生活を送る。他者の、他の生物の死の影が私の表す感情に多かれ少なかれ影響を与えているというのは不快だが、共存。これも共存。ああ、嘘ちゃらめ、舌の上にこびりついている、この粘りを持った血を美味しくしてくれないか。嘘ちゃらめ、わたしはあなたによく似ている。できることならば芯の芯まで乗っ取ってくれないか。嘘ちゃら、頼む。今日は寝るつもりだ。明日はお前だ。

 

 

 

2017年6月17日、18日

土曜日

午前5時半、起床。

2分ほど掃除をして、風呂。

家を出るまでに時間があったので、テレビをつける。ニュースショーが流れていたがまるで頭に入ってこないので、ザッピングしていると、「100%パスカル先生」というコロコロコミックに連載されているらしい漫画原作のアニメが始まった。全身黄色の丸っこい人語を解す生き物(パスカル先生)を中心としたコメディのよう。最後まで見る。

パスカル先生が終わると続けて、これまた奇妙な生き物が数匹出る、どうやら女の子を主人公にしたアニメが始まったが、学校の成績だけを気にして自分をあまりみてくれない母親に対する愚痴を女の子が言い出したところで気が狂いそうになったので、テレビを消し、一時間ほどまた寝て、賃労働のため家を出た。

仕事は哀しい。終わった後に人と酒を飲んだ。

 

日曜日

昨晩酩酊したためか、久しぶりに長時間眠った。

目を覚ましたのはいいが、たくさんの罪を犯した気がしてたまらず、夕方までなにもせず横になって天井を眺めていた。5〜10分に一回昔の記憶が、強烈な恥ずかしさをともなって、フラッシュバックを起こす。鼓動が早くなる。

午後4時、雨が一時的に弱まったので、気晴らしも兼ねて外出し、近所のコンビニで菓子パンを2つ、500ml炭酸飲料を1本、煙草を1箱買う。外の空気を吸っても気分が全く晴れないことがわかったので、店を出たら寄り道せずに家に帰った。公共料金の支払いを忘れたことに気がついたのは、玄関で靴を脱いでいるときだったが、もう一度外に出る気力はなかった。

午後6時、筒井康隆脱走と追跡のサンバ」を読んでいた。読んでいる最中も、後頭部、頭蓋骨と脳髄の隙間に奇妙な妄想が潜んでいることはわかっていたが、なるべく刺激しないよう、できることならば物語がそういった妄想を頭の中から追い出してくれることを期待しつつ、静かにページを繰っていたが、第2章に入ったところでもう妄想が、頭全体に広がって、妄想の分子が混じった髄液が、脳溝から脳幹の中心部までひたひたひたひた染まっていく、物語と結びついて、毒性を増した妄想を私はもう無視できない。無視できないならばこれ以上呑気に本を読んでいることはできないわけで、だって5分も同じ一行ばかり目で追っているじゃないか!、閉じ、息を強く吐き、布団にくるまって、妄想に付き合った。2時間ほど付き合ったか、疲れて、意識が飛んだ。

午後9時、目を覚ます。なにもよくなってない。なにもよくなっていないことが許せない。なぜなにもよくなっていないのか。睡眠は治療ではないのか。16日に買ってあった焼酎を飲む。アルコールを腹に入れ、煙草を2本吸い、すこし落ち着いたので、これを書いている。

 

2017年6月16日

午前6時起床。眠剤のせいでふらつくが資源ごみの日なのでダンボールと酒瓶をまとめてゴミ捨て場に向かう。帰りにコンビニで朝食を買って帰宅。

 

ぼうっとしたあと、手元にたまたまあった古い世界史の教科書を横になって読んでいると、眠気がきた。二時間ばかり寝る。

起きると、携帯電話に隣人から昼食の誘いが入っていた。食欲はなかったが、連絡してみると、もう済ませた後とのこと。せっかく誘ってくれたのに申し訳ないことをした。

 

夕方地元の図書館に行き、4冊ほど借りる。その後スーパーに行き、焼酎と昼飯を買う。

帰ってからは借りたつげ義春を読み終えたあたりから眠気に再度襲われて、ちょうど一時間寝た。

悪夢を見たせいか、からだ中寝汗で濡れていて、鼓動が早くなっていた。薬を飲む。

 

気分が晴れたような気がしたので筒井康隆脱走と追跡のサンバ」を読み始めるが、一章を終えた時点で、急に脳具合が悪くなって本を閉じる。どうしようかと途方にくれていたところ、偶々知人から電話がかかってきたので、具合の悪さを話しながら泣く。

 

電話を終えたら日をまたいでいたので、薬と眠剤を飲んで、煙草を3本吸った後、布団に入る。あまり気分ではないのだが、代わりもないので、シューマンを聴きながら意識が飛ぶのを待つ。

 

明日のことは考えないほうがいい。

今日

電車に乗っていたら、酒でも飲んでいるのか、足取りの確かでない瘦せぎすの中年男性が息子とおぼしき子供と乗り込んで来て、私の隣の席に座った。
腰を下ろして間もなく男は小声、といってもすこし意識すれば走る車内でもはっきり聞こえる程度の音量で、対面の座席をなんども指差しながら、子供にささやきかけはじめた。
「あれ、なにかわかる? あれだよ。おい」
子供は俯いたまま答えない。
「あれ、なにかわかる。おたく。お・た・く。おたくの三流サラリーマン」
男の指す先にはスマホゲームをしている会社員風の男性が座っていた。
子供は変わらずなにも答えない。黙って、俯いて、自身の腿の付け根あたりで指をもじもじと絡ませている。
「おい。せんずりこくなよ。せんずり。せんずりするのは三流の男なんだよ。せんずりこくな」
次の駅に着いた。
「せんずりやめろ。いくぞ」
ドアが開くと二人は手を繋いでホームに降りていった。私は息が苦しくなって、読んでいた本をカバンの中にしまった。