枸橘半分日記

OL自分探しの末路

今日

電車に乗っていたら、酒でも飲んでいるのか、足取りの確かでない瘦せぎすの中年男性が息子とおぼしき子供と乗り込んで来て、私の隣の席に座った。
腰を下ろして間もなく男は小声、といってもすこし意識すれば走る車内でもはっきり聞こえる程度の音量で、対面の座席をなんども指差しながら、子供にささやきかけはじめた。
「あれ、なにかわかる? あれだよ。おい」
子供は俯いたまま答えない。
「あれ、なにかわかる。おたく。お・た・く。おたくの三流サラリーマン」
男の指す先にはスマホゲームをしている会社員風の男性が座っていた。
子供は変わらずなにも答えない。黙って、俯いて、自身の腿の付け根あたりで指をもじもじと絡ませている。
「おい。せんずりこくなよ。せんずり。せんずりするのは三流の男なんだよ。せんずりこくな」
次の駅に着いた。
「せんずりやめろ。いくぞ」
ドアが開くと二人は手を繋いでホームに降りていった。私は息が苦しくなって、読んでいた本をカバンの中にしまった。